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混声合唱とピアノのためのソナタ第2番 について⑤ 2楽章についてその2

 混声合唱とピアノのためのソナタ第2番 について、前回の④では、第2楽章に関連してクーラントと変奏曲についてお話をしました。


今回の⑤では、実際に2楽章でどのように詩それらを扱ったか、言語についてもどのような処理をして曲に結びつけたか、作曲手順を含めて少しずつお話ししていきます。


 まずは、この2楽章でやりたかったことについてお話ししたいと思います。前回にお話しした通り、クーラントと変奏曲を合わせるということは発案当初から思っていたことでした。ただ、もともとクーラントは変奏も伴うこともあるので、一緒にしたところで、異質のものをあえて合わせているとは言えないのかもしれません。そこで、ほかの要素も加えたいと思いました。


 今回の作品では八木重吉さんの詩を扱っていますが、彼が英語教師だったこと、キリスト教信者だったことということから、英語とラテン語というキーワードが私の脳裏に焼きつきました。そこから、変奏曲と結びつけ、「言語における変奏≒言語の変換」という解釈で日本語の詩を英語とラテン語の翻訳をしたものという3つの言語を使用するというアイデアに至りました。もちろん、ただ訳して並列するだけではございません!



 それでは、それぞれの言語による詩を掲載します。とその前に、今回の英語訳・ラテン語訳について様々なアドバイスを3名の先生方にいただきました。大学の英語の授業でお世話になった先生、私が埼玉にいるときからお世話になっている声楽の先生、東混さんの演奏会に行ったら運よく団員の方からその場で紹介いただいたラテン語の先生、皆さん個人のお名前は掲載しませんが、本当にありがとうございました。これらの出会いがなかったらこの作品は完成しなかったと思います。ご縁に感謝!


 さて、日本語の元の詩は以下です。

・・・・・・・・・・

日本語原文



   かなしみ 


このかなしみを

ひとつに 統ぶる 力はないか

・・・・・・・・・・


このたった2行の短い詩を読んだ時に、何かわからないですが、作者の強い念と言えばいいのでしょうか、それを感じずにいられませんでした。と同時に、疑問も浮かびました。

 最後の言葉に注目すると、これは読み方によっては、「力はない」という諦めのような否定に、もう一つは「力があるのだろうか、ないのだろうか?」という疑問形のようにも捉えられます。八木重吉自身は、このどちらかの解釈なのでしょうか、それとも、自分自身がわかっていないということを表現しているのでしょうか。

 「秋の瞳」をすべて読んでみても、「?(クエスチョンマーク)」を使っていない、疑問文とみることもできるような表現がいくつか見受けられます。

 深読みすると、これは3つの解釈が生まれると思います。


そこで、日本語の原文では、それら3つの解釈がすべて含まれているという理解で、英語では諦めや否定を、ラテン語では希望や祈りの意を持たせるために疑問形で翻訳しました。


以下は英語です。

・・・・・・・・・・

英語訳


Sorrows


My sorrows –

There’s no power to make them one.


・・・・・・・・・・


そしてラテン語。

・・・・・・・・・・


ラテン語訳


Dolores


Dolores meos,

Non est potentia qui regnat?


・・・・・・・・・・


音楽として、以上の3つ言語によるそれぞれの提示と、そうあってほしい「希望」を、作品に昇華させようと思い作曲しました。


 第1部は、日本語の詩での提示です。フランス式クーラントの特徴の「3/2と6/4の交代・模倣・比較的緩やかなテンポ」を下敷きに、2行の詩を6小節のフレーズとして構成した第1主題を作成しました。徐々にダイナミックに、細かい音符が増ながら変奏されるピアノ伴奏をバックに、合唱がフガートで順次導入します。すべて導入が終わると、遣る瀬無い思いとでもいえばいいでしょうか、音が「畝り」となって進行し、一旦締めくくられます。ピアノの響は残り第2部へ続きます。


 第2部は、英語での提示です。こちらは下行してゆく4小節のフレーズで成る第2主題で、同じくピアノ伴奏を伴いながらフガートで進行していきますが、第1部とは違い和声的にできています。徐々に半音階的な下行進行が目立つ和声に変奏されながら進みます。


 第3部は、ラテン語での提示です。第2部に対して、こちらは半音階的に上行で生成された部分をもつ、7小節のフレーズでできた第3主題がアカペラで1回だけ提示される、ごく短い部分です。ピアノの後奏に導かれて、第4部に続きます。


 第4部は、第1部の構成を逆にしたような進行を背景に、第1・2・3主題が同時に絡み合います。


 第5部は、第3主題を用いて、空虚5度の響きにより、厳かでかつ淡々と祈られます。


 さていかがでしょうか?


ぜひ、少しでも多くの方に、今年2020年9月5日(土)のパナソニック合唱団さんの定期演奏会にお越しいただき、演奏をお聞きいただければと思います。

 パナソニック合唱団さんのHPには、演奏会情報がいつアップされるのでしょうか?楽しみです!みなさんもチェックしてみてください!

 パナソニック合唱団さんのHPはこちら


 それでは、今日はこの辺で。

次回は第3楽章についてお話ししていきたいと思います!



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